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盛岡家庭裁判所 昭和48年(少ハ)2号 決定 1973年11月01日

少年 B・O(昭二八・七・五生)

主文

本人を昭和四八年一一月三日まで中等少年院に収容継続する。

理由

第1申請の趣旨および理由の要旨

本人は昭和四七年一〇月四日盛岡家庭裁判所において昭和四七年少第六九五号、一〇一三号窃盗保護事件につき、中等少年院送致決定を受け、同年同月六日東北少年院に入院し、矯正教育に服してきたところ、昭和四八年一〇月三日をもつて少年法一一条一項但書による収容期間を満了するものである。ところで、同人は同少年院に入院後昭和四七年一二月一日より同院の電気工事士養成課程に編入され、電気工事士の免許取得のため勉学中であるが、右免許取得のためには、所定の訓練期間の確保および免許試験(昭和四八年一〇月二二日実施予定)受験になお一か月間収容を継続する必要があるので本申請に及ぶものである。

第2当裁判所の判断

当裁判所調査官小原英子作成の調査報告書四通(陳述者、東北少年院分類課長、同院電工科担当教官、保護者実母、本人)および意見書、身元引受人次兄に対する照会回答書および当審判廷における本

人の陳述ならびに本人に対する前記保護事件の少年調査記録によれば

1  少年はシンナー、ボンドを常用し、その場の雰囲気によつて衝動的かつ軽率な行動に走り易い性格のため、非行(窃盗)を反覆してきたものであるが、本人のこのような性格は同少年院の個別指導等の処遇方針により著しく改善されたものと認められ、シンナー、ボンドに対する誘惑も現段階では完全に払拭されたものといえ、後記のとおり本件収容継続を自ら希望することを決意するに至つた内的過程から推測すれば、本人も自主性、積極性を持ちつつあると考えられ、少年の犯罪的傾向はすでにほとんど矯正されたものと考えられる。

2  また、本人の在院中の生活も概ね良好であつて、反則行為(けんか)が一回あるのみで電工の職業訓練に励み、研究心旺盛で技術的にも秀で、その成績は優秀であると認められ、昭和四八年三月一日勤勉賞を受賞し、昭和四八年八月一六日には一級の上の処遇段階に達している。

3  そして、本人の両親や退院後の身元引受人となる次兄および同人の妻子らは常に本人と連絡を保ち、同人を激励し、退院後の帰住先や就職先等本人の環境調整に努力し、特に身元引受人となる次兄が退院後の本人の指導監督に尽力する旨申し出ており、本人もこれに従う旨述べており、この点において現段階において退院させることに障害となる事由は見い出せない。

4  ところで、前記のとおり本申請の主たる理由は本人に対する職業補導のためというものであるが、右理由を主たる理由あるいは唯一の理由として収容継続が許されるか否かについてはいささか疑念のあるところであるが、当裁判所は少年院法一一条二項の「犯罪的傾向がまだ矯正されていない」とは在院者の従前に犯した非行を基準として在院者が再び犯罪を犯す蓋然性が存するか否かを在院者の能力、性格、在院生活、退院後の保護環境等を総合して判断すべきものであり、右判断にあたつてはさらに同法一条、四条の在院者に対する矯正教育の本質には少年法の規定する少年の健全な育成(単に非行の防止にとどまらない)の精神が考慮されるべきであり、また、現在の少年院は在院者数の減少、人的物的施設の改善などによりその処遇内容はいまだ十分というには躊躇されるにしてもかなり充実されてきているとの実状をも十分に斟酌されるべきであると考える。従つて、本人の犯罪的傾向がほとんど矯正された状態にあると認められる場合にも収容を継続して当該職業補導を続行することにより、右状態をより確実にし、さらに本人の健全育成に有効である場合には右事由を主たる理由あるいは唯一の理由として収容継続が許されるものと解すべきである。しかし、このような場合には特に在院者の人権が不当に侵害されることのないように十分に配慮すべきことは当然であるから、当該職業補導を履修することによつて何らかの法的資格を取得できるかあるいはこれと同等程度の社会的地位を得ることができることが確実であり、在院者にそのための意欲が窺え、収容継続後短期間(概ね一、二か月間)のうちに当該職業補導の課程が終了する見込みがあることなどの条件がある場合に限つて収容継続を許容することができると解するを相当とする。そこで、本件について検討するに、本人が電気工事土の資格(一般家庭用三〇〇V以下)を取得することは現在の企業社会における電気工事士の需要度のほか、身元引受人の次兄が考慮している退院後の就職先(電気関係の企業)に就職するうえで有益であること、本人は東北少年院において電気工事士の資格を取得するに必要な訓練期間のほとんどを終了し、同院の教官の指導を信頼し、勉学中であり、同院で職業補導を継続して履修することが本人にとつて有利であること、本人は収容継続のうえ右課程を終了し、電気工事士の資格を取得することを真しに希望し、両親や身元引受人の次兄もこれを望んでいること、本人の能力からして昭和四八年一〇月二二日の右資格試験を受験すれば合格することは確実であり、残余の訓練期間も収容継続を一か月間延長することによつて終了する見込みであることがそれぞれ認められる。

5  以上のとおりであるから、当裁判所は本人について少年院法一一条二項の犯罪的傾向はほとんど矯正されていると考えるが、同項を弾力的に解し、本人の犯罪的傾向の矯正をより確実にし、さらに本人の健全育成に資するため職業補導を履修することが相当であると考えるので、本人を引続き中等少年院に収容継続することとし、その期間を昭和四八年一一月三日までの一か月を限度としてこれを許容することとする。

よつて少年院法一一条二項、四項、少年審判規則五五条により主文のとおり決定する。

(裁判官 本井文夫)

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